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読書感想文・ケーキの切れない非行少年たち

読書メモ

作品名:ケーキの切れない非行少年たち

発行:2019年7月26日

著者:宮口幸治

購入日:2022年7月2日

読み始め:2022年7月2日

読み終え:2022年7月3日

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 何年か前(おそらく刊行当初)に話題になったとき、興味があったけど買うまではしなかった本。こういうタイプの本って何冊かは持っているけど、どうにも作者の思考や思想で構築された世界すぎてこちらの思考が引っ張られるから読んでいて何が正しいのかわからなくなって苦手。電車や高速バスとかのお供に買って読むくらい。

 コミカライズ版がKindle Unlimited入りしていて2巻まで読み放題の対象になっていたので読んでみました。かなり考えさせる内容で原作にも興味が湧き、電子書籍版を購入。前述の苦手さがあるので電子書籍で買ってよかったなって思いました。紙だとより作品世界に没頭してしまう気がするので。

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 コミックの青年が持っているイラストおよび原作の帯の部分のイラストに見覚えのある人も多いのではないでしょうか?「円が描かれている紙を与え、『これはケーキです。このケーキを三等分する線を引いて下さい』と言われて線を引かせたときにきっちり三等分できない人が一定数います」みたいな内容のツイートがバズっていたような記憶があります。彼らは軽度の知的障害、もしくはそれに近しいもののギリギリそれよりは上で社会的なサポートは受けられず、けれど生きていく上で大変さを抱えている。私生活において家庭や周囲の環境に恵まれていれば適切な補助を受けることもできるが、目を向けられず取りこぼされた子もいて、少年院はそうした子どもたちの行き着く先になってしまっている。概ねそのような内容が書かれています。

 割合でいうと小学校の35人で1クラスだったとして、サポートが必要だと見なされるのが1人、サポートが必要なのに大丈夫と見なされるのが5人程度いるそうです。なぜその5人を含めないのかの理由としては、彼らは一見普通に見えるしそこまで深刻ではないからというのとその5人までサポートの対象に含むとなると支援しなければならない人数が増えて手が回らないからだそうです。

 実際に自分の小中学生の頃を思い出したときに、そういう子確かにいたなあと思いました。日常会話には全く苦労しないのに音読や文章を書くのが極端に苦手な子や、説明を聞いた上でいざやってくださいと指示されると何をしていいのやら動けなくなる子……。高校進学で同じ地域に住む同じ年齢の集団から学力によって区分された集団になったときにまず驚きました。あまりにも息がしやすい。会話するのに相手の理解度を測りながら話を進める必要がないし、予想外の行動に対するフォローを考える必要もない。困っているクラスメイトをサポートするのは当然とはいえ、足並みを揃えなければならないという部分に知らず知らずのうちに抑圧されていたのだなあと思いました。

 そうした生きやすさも学生身分のうちだけで、社会に出ればまた色んな種類の人との関わりが生まれます。入社時の面接や試験があるために小学校ほど無作為な集団ではないとはいえ、学生時代よりは幅広い層の集団になりますし、接客業であればお店のタイプにもよるでしょうがそれはもうあらゆる人々と接することになります。そんな中で、どうにも「この人ズレてるな」という人が現れます。そういった人々に消耗している人がとても多い。これは私の見えている範囲だけに限った話ではないと思います。

 「なんであの人は説明してもわからないんだろう」「これをそうしたら後々困るってわからないのかな」「自分の説明が下手なのかな」「一から十まで紙に書いてあげないといけないのかな」

 思い当たる節はありませんか?多くの人が口にしているのを耳にします。前置きがものすごく長くなりましたが、この本はそんな疑問に対して「そうなんだよ。わからないんだよ」という答えをくれます。それだけといえばそれだけなのですが、相手がわからないことをわかるというのは結構重要なことだと思います。少なくとも私はこの本を読んでストンと落ちました。

 正解の解決法がある問題でもないので、答えをくれるわけではないけれど言語化されることは悩める人のひとつの救いになるのではないでしょうか?

 ちなみに原作とコミック版ではアプローチの仕方に違いがあります。私の感想としては原作は体系化され教科書的な印象を受け、どちらかと言えば会社の社長や学校の先生など多くの人と関わり指導しなければならない人向けなつくりになっていて、コミック版はキャラクターとして人格を持った存在のパーソナルケースに視点を合わせているので、個として人と関わる人向けなつくりになっています。

 お話として楽しみたいのであればコミック版を、勉強のつもりで読みたいのであれば原作版を選ぶと良いと思います。Kindle Unlimited会員であれば読み放題なのでコミック版を試しに読むのもアリかと。

 

 思いの外真面目な内容になってしまった。書きながら「私は何を……?」となっていました。たまにはこういうのもアリ。